The Modelに潜む落とし穴:営業とマーケが噛み合わない本当の理由
「マーケが持ってくるリードは商談にならない」「営業がリードをちゃんと追わない」——。多くのBtoB企業で、この応酬が毎月のようにくり返されています。しかし本当の原因は、担当者の努力不足でも、コミュニケーション不足でもありません。The Model(ザ・モデル)に代表される分業体制そのものに潜む、構造の落とし穴です。本記事では、営業とマーケティングが噛み合わない理由を構造から解き明かし、共通KPIで「ひとつのチーム」に変える方法を、Enablement(イネーブルメント=人と仕組みの両方を育てる)の視点で解説します。
The Model(分業体制)はなぜ導入されるのか
The Model(ザ・モデル)とは、営業プロセスを役割ごとに分業する考え方です。多くの企業が、次のように組織を切り分けています。
- マーケティング:リード(見込み客)の獲得
- インサイドセールス:リードへの初期接触と商談化
- フィールドセールス:商談から受注までのクロージング
工場の分業ラインのように、それぞれが自分の工程に集中すれば全体の効率が上がる——。これがThe Model導入の本来の狙いです。実際、役割が曖昧なままの「一人何役」の営業組織に比べれば、分業には明確な利点があります。
ただし、数多くの現場を見てきた実感として、私はThe Modelには利点以上にサイロ化(各部門が縦割りに孤立し、連携が失われること)を促進する側面が強いと感じています。分業は「役割を分ける」だけでなく、放っておくと「関心や責任の範囲まで分けてしまう」。この分断を促進する力のほうが、実務では優位に働きやすいのです。次章では、その具体的な現れ方を見ていきます。
しかし現場では何が起きているか
ところが、分業を敷いた多くの現場で、狙いとは逆の現象が起きています。「部分最適の罠」です。
月末の進捗会議を思い浮かべてください。マーケティング側は「今月も目標を超えるリードを獲得しました」と報告します。一方の営業側は「そのリードは検討度合いが低く、商談にならない。もっと質のいいものが欲しい」と返します。するとマーケ側は「約束した件数は渡している。追いきれないのは営業側の問題では」と反論する——。
この不毛な応酬は、どちらか一方が怠けているから起きるのではありません。むしろ両者が真面目に、自分の担当領域のKPIを追えば追うほど、対立が深まるという点にこそ問題の根深さがあります。
なぜこの問題が起きるのか
原因は担当者の性格でも能力でもなく、両部門のKPI(評価指標)が、最初から噛み合わないように設計されていることにあります。これはマネジメント側が解くべき「構造の問題」です。
具体的に見てみましょう。
- マーケのKPIが「リード獲得数」の場合:意識は「CPA(獲得単価=Cost Per Acquisition)をいかに下げ、件数を積むか」に向かいます。結果として、間口の広い一般向け資料を量産し、購買意欲の薄い層まで数として集めがちになります。
- 営業のKPIが「受注金額」の場合:欲しいのは「今、予算を持って検討している決裁者」だけです。件数の多さそのものには価値を感じません。
つまり「件数を増やしたいマーケ」と「質を絞りたい営業」という、真逆のベクトルを持ったKPIを、それぞれが全力で追っている状態です。これでは対立が激化するのは当然といえます。
顧客の立場に立てば、御社のマーケも営業も区別はなく、「同じ会社」として見ています。社内都合でバトンを投げ合う組織は、顧客体験(CX=Customer Experience)を損ない、結局は受注率を下げてしまうのです。
どう解決するか——3つの打ち手
解決の出発点は、両部門を同じ旗(共通KPI)の下に集めることです。そのうえで、精神論ではなく「評価」と「会議体」という仕組みに落とし込みます。
打ち手1:評価指標を「有効商談(SQL)」「パイプライン創出額」に置き換える
マーケの評価に、リード件数ではなく、営業が「これは明確な課題を持つ良い商談だ」と認めた SQL(Sales Qualified Lead=営業が有効と認めた商談) の数、およびその見込み金額の合計であるパイプライン創出額を組み込みます。
こうすると、マーケの行動は自然に変わります。「CPAが安くても、営業が有効と認めなければ自分の評価にならない」と理解するため、薄いリードの乱発をやめ、決裁権を持つ本命ターゲットを狙う施策へと自発的にシフトしていきます。
打ち手2:「良いリード」の定義を共通認識にする
「質の良いリード」という曖昧な言葉が、対立の火種になります。営業とマーケの責任者が、自社にとっての MQL(Marketing Qualified Lead=マーケが有望と判断したリード) の定義を事実ベースで言語化し、両部門で同じ定義を共通認識として持つことが出発点です。定義の例は次のとおりです。
- 企業属性:従業員規模、業界、エリアなどの条件
- 行動シグナル:「特定ページを複数回閲覧した」「導入事例をダウンロードした」など、検討度合いを示す行動
- 除外条件:学生・競合・個人事業主など、カウントしない対象を明記
条件を満たしたものだけを「リード」と呼び、満たさないものはマーケ側でナーチャリング(育成)に回す。この線引きが、「使えないリードを渡された」という水掛け論を止めます。
打ち手3:Win/Loss分析を「事実だけ」で回す
月に1回、営業とマーケ合同の Win/Loss(勝因・敗因)分析会 を定例化します。ルールはひとつ、主観や感情を持ち込まず、SFA(Sales Force Automation=営業支援システム)のデータだけで話すことです。
「営業が追っていない」と言うなら、放置されている案件のステータスをデータで示す。「リードが使えない」と言うなら、失注理由の内訳を出し、たとえば「対象外」が大半ならターゲティング条件を見直す。事実で突き合わせて初めて、「来月はここを改善しよう」という前向きなサイクルが回り始めます。
仕組みだけでは定着しない——Enablementという視点
ここまでの3つは、多くの解説記事でも語られる王道です。しかし現場を見ていると、仕組みを入れても数ヶ月で形骸化するケースが後を絶ちません。
理由は明快で、KPIやSLAは「ルール」であって「能力」ではないからです。ルールを運用しきる人がいなければ、定例会は単なる報告会に戻り、SLAは棚上げされます。
Enable Partnersがこの領域を Enablement(イネーブルメント=人と仕組みの両方を育てる) と呼ぶのは、ここに核心があるからです。連携を定着させるために重視すべきは、次の3点だと考えられます。
- マーケが「商談の現場」を体感する場をつくる:顧客がどんな言葉で悩み、何に納得して意思決定するのか。営業同席やインタビュー同席を通じて、マーケの中に「顧客の解像度」を入れる。ここが変わると、発信するコンテンツの質が根本から変わります。
- 共通KPIを「読める」状態にする:ダッシュボードを配るだけでなく、数字の意味を全員が同じ理解で語れるように育てる。
- 改善を「型」として残す:うまくいった連携を再現可能な手順に落とし、属人化させない。
仕組み(Systemize=仕組み化)と育成(Enable=人を育てる)は、セットで初めて機能します。
まとめ
営業とマーケティングは、バトンを渡し合うリレー走者ではなく、同じゴールへ一緒に攻める2トップです。「リードの質」論争は担当者の問題ではなく、噛み合わないKPI設計という構造の問題でした。共通KPI・SLA・Win/Loss分析という仕組みに落とし込み、それを回しきる人を育てる。この両輪がそろって初めて、分断はひとつのチームへと変わります。
まずは、マーケの責任者にこう切り出してみてはいかがでしょうか。「これからは件数じゃなくていい。営業が『絶対に受注できる』と言える顧客を、一緒に見つける作戦を立てよう」と。その一言が、最初の一歩になります。
Enable Partnersでは、営業・マーケの連携設計から、それを回しきる人材の育成(Enablement)までを一気通貫で支援しています。「仕組みは入れたが定着しない」という段階のご相談を多くいただいています。